慶応　聖地でも「エンジョイ」　日本一を目指す戦いへ

　第１０５回全国高校野球選手権記念大会は６日、兵庫県西宮市の甲子園球場で開幕する。神奈川代表の慶応は、大会第６日（１１日）の第３試合で北陸（福井）と対戦。２０１５年秋の就任以来、春夏合わせて４度目の出場となる森林貴彦監督（５０）は「選手の表情や目を見てもこれからやるぞという気持ちにあふれている」と期待を込める。今春の選抜大会で悔しさを味わったナインがエンジョイ・ベースボールを磨き上げ、聖地に忘れ物を取りに行く。

センバツは激闘の末に惜敗

　昨秋から長打力が際立ったチームは柔軟な戦術を身に付け、進化を続けてきた。神奈川大会でのチーム打率は３割７分７厘で、投手陣は２年生エース小宅を筆頭にチーム防御率は１点台。投打がかみ合い、春夏連続で激戦区の覇権を握った。

春以降、明確に掲げてきた「競争」は集大成の夏も継続し、ベストオーダーを模索。負担軽減も視野に中軸を固定することもなかった。

　ベンチ内の雰囲気を支えたのは「エンドレス」という言葉。「どんなに点差が広がっても何が起きるか分からないのが高校野球」（主将大村）と緊張を切らさず、決してあきらめない姿勢を貫いた。極め付きは決勝の横浜戦。六回に逆転され、走塁ミスなども響いた。それでも、九回に渡辺千が劇的な決勝３ラン。大村は「横浜に向かっていく姿勢は秋とは全然違う。精神的に成長した」と手応えを隠さない。

　体調管理の徹底ぶりも栄冠を手繰り寄せる大きな要因だった。練習中は熱ごもりを検知し、熱中症のリスクを事前に知らせるリストバンドを着用。主力選手をスタメンから外したり、大会期間中にも完全オフを設けたりするなど、「神奈川大会全体で、良いコンディションで戦うため」という指揮官の英断も光った。

　選抜大会は優勝候補と目された仙台育英（宮城）に延長タイブレークまで及ぶ激闘の末に１─２で惜敗した。「シンプルに負けたことが悔しい。苦しいことを仲間と乗り越え、日本一を目指せる自信が付いた」と大村。視線の先に深紅の大旗をくっきりと捉えている。

エース小宅　心の余裕を武器に

　エース右腕小宅が今春のリベンジを誓う。最速は春以降で１４５キロまでアップ。新たに身に付けた縦のスライダーやカットボールなどの変化球を駆使し、最善策を見いだす投球術も成長した。仙台育英戦では８回１失点と好投。「相手打者を見下ろすくらいのメンタルで投げられている」とマウンド上での心の余裕も大きな武器だ。

　左腕の鈴木や右横手の松井ら個性豊かな投手陣も控える。「自分が後ろで待機している。堂々と投げてほしい」と松井。頼もしい最上級生がブルペンを支える。

　神奈川大会では７試合で３失策と守備から崩れることもなかった。攻守に抜け目なく、ゲームを支配していく。

丸田　頼れるリードオフマン

　秋に１番打者を務め、春は２番も経験した丸田がリードオフマンとして一層たくましくなった。

　神奈川大会ではチーム最高の打率６割２分５厘と自らのスイングで幾度となく戦況を打破してきた。「ファーストストライクで当てにいかずにスイングできた」。準備に裏打ちされた打席での積極性が結果に直結した。

　今春の選抜大会では１四球を選ぶも、４打数ノーヒット。「まずは甲子園で１本打ちたい」と目をぎらつかせる。

　２番に定着した八木も１０打点に打率４割５分５厘と打線を厚くさせた。緊迫した場面でのスクイズも難なく決めた。昨夏も共にベンチ入りした丸田との息の合った１、２番コンビの活躍は「ＫＥＩＯ日本一」に欠かせないピースとなる。

　春の屈辱から「速球への対応」と「一球で仕留める集中力」を磨いてきた。大会終盤では長打力を発揮したが、有利な展開に持ち込むしたたかさも備えている。（藤江　広祐）

沿革　福沢諭吉が江戸末期に開いた「蘭学塾」（後の慶應義塾）に始まる私立男子校。１９４８年に新制高校となり、４９年秋に横浜に移転。「独立自尊」の精神などを基本に、幼稚舎から大学までの一貫教育を行う。

　野球部も４８年創部だが、前身の普通部（東京）は１６年の第２回に全国制覇。２０年夏には準優勝と輝かしい実績がある。東京時代を含め、これまでに春１０度、夏１８度の甲子園に出場している。ＯＢには柳町達（ソフトバンク）木沢尚文（ヤクルト）正木智也（ソフトバンク）らがいる。阿久沢武史校長。生徒２１８０人。部員１０７人。横浜市港北区日吉４の１の２