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【WEB記事】メンバーに入れず 慶応・森林監督の長男はアルプスで声援(2023.08.19 神奈川)

2023年08月29日


慶応7-2沖縄尚学

 19日に甲子園球場で行われた全国高校野球選手権記念大会の準々決勝で、神奈川代表の慶応高は沖縄尚学高に7─2で勝利し、103年ぶりに4強入りを果たした。三塁側アルプス席では森林貴彦監督(50)の長男で3年の外野手、賢人が大きな声で仲間の、そして父の背中を後押しした。

 小学生の頃、父が監督に就任した。「指揮を執る姿がかっこよかった。監督をやっているから慶応で野球がしたい」。同じユニフォームを着ると決め、中学受験で慶応普通部に入学した。

 高校野球部に入部する際に反対されることはなかった。「息子という立場で、他の部員より厳しくなるかも知れない」と言われたが、「やってやろう」と火が付いた。

 投手として歩みだしたが、制球が定まらなくなり、2年の5月、外野手に転向した。父からもらった投手用の硬式グラブは今でも自分の部屋に、大事に飾ってある。

 家ではテレビ中継を見ながら戦術などに口を出し、「母にあきれられています」という野球が大好きな父。一方で、グラウンドでは厳しい一面も見せる「森林さん」。自分の名字を呼ぶ違和感はあった。だが、やりにくさを感じたことはない。

 それは「仲間が気にすることなく接してくれたから」。ボールパーソンとして父と甲子園の土を踏んだ今春の選抜大会。宿舎の地下駐車場でチームメートと練習した時間は青春そのものだった。

 選手と監督をつなぐ役割も担った。「『言いたいことがあれば、俺から伝えることもできる』と言ってくれたんです」。マネジャー大鳥は、賢人の仲間思いな言葉を良く覚えている。

 迎えた最後の夏。神奈川大会のメンバー発表で賢人の名前はなく、悔しさで涙がこぼれた。そんなとき、同じ外野手の丸田が「お疲れさま」と声をかけてくれた。「普段はそんなこと口に出さないやつ。俺の分も頼むよ」と思いを託した。

メンバー外れた後、父がかけた言葉

 後日、メンバーを外れた3年生が一人ずつ監督室に呼ばれ、父から「立場が難しかったと思う。お疲れさま」とねぎらわれた。そう感じたことはほとんどなかった。でも初めて知った父の気持ちがうれしかった。

 野球で悩んだときも、父に相談することはなかった。「家ではいつものパパでいてほしかった」。慶応の幼稚舎教諭と二足のわらじで多忙を極める父への気遣いだった。

 甲子園の大会期間中は下級生の練習をサポート、指導している。人に教える面白さを知り、卒業後は慶大野球部に進むか、父が歩んだ道と同じ学生コーチをするか迷っている。「練習前に意識するポイントを伝えています。下級生はまだ野球を楽しみきれていない」。父が何を大切に教えてきたかをずっと見てきた。

 「夢は世界一周。遠くに行くのが好き」。今月12日が18歳の誕生日だった賢人は、両親からスポーツタイプの新しい自転車をプレゼントされた。それでも、今は「誕生日より大事」とチームの勝利を一番に願う。「日本一になってくれると信じている」
(藤江 広祐)

 

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