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【WEB記事】慶応の躍進支える「データ班」 対戦相手の配球徹底分析(2023.8.20 神奈川新聞)

2023年08月30日

 第105回全国高校野球選手権記念大会の準々決勝で、沖縄尚学の好右腕・東恩納を攻略した慶応。神奈川大会から好投手を相手に勝ち上がってきた舞台裏には、メンバー外の3年生が担う「データ班」と学生コーチの活躍がある。

 対戦相手が決まればすぐに動き出す。学生コーチから集めるデータの指示を受け、動画で視聴できる公式戦はくまなく見る。そして、相手投手陣の状況別、カウント別に配球傾向の割合をグラフ化し、学生コーチに共有。学生コーチが慶応の各打者の特徴に合った狙い球を絞っていく。

 打撃を指導する学生コーチの斎藤俊さんは今春の選抜大会で仙台育英の投手陣に抑え込まれた経験が大きいと振り返る。「個人任せにせず、プランを立てる」。打ち方まで指示することもあり、打てなかったときの次の策も準備する徹底ぶりだ。

相手の重圧に

 東恩納との対戦では、警戒していたスライダーを、前半は多くの打者が振ってしまった。それでも「選手たちが考えて次のプランで臨めた」という六回に一挙6得点で勝ち越した。

 斎藤さんによると、相手バッテリーはフォークボールを使うなど、事前に集めたデータと違う配球もしてきたという。「データ班の存在が相手の重圧になっているのでは」と心理的な影響も実感する。森林貴彦監督(50)も「ここまで来るには学生コーチや高校生のデータ班の活躍があった」と認める。

 相手打者の分析は学生コーチが担当。得意な球種と苦手なコースなど、バッターそれぞれの特徴を抽出した上で、バッテリーと話し合い、配球を決めていく。

 データ班は主に3年生3人が中心となり、他の3年生にも協力を仰ぎながら情報を整理する。まとめ役は「データチーフ」の荘司有輝(3年)。「ただ野球の動画を見るだけでなく、数値化することが面白かった」と下級生の頃に立候補した。

深夜まで作業
 外野手の荘司は主力ではない「Bチーム」で過ごす時間が長かった。転機はやはり、選抜の仙台育英戦。ナインの激闘を目の当たりにし、帰りの新幹線で「夏の甲子園で自分が選手としてプレーする姿が想像できなかった」と決心がついた。4月、「本格的に専念したい」と森林監督に申し出た。

 実は、夏の神奈川大会前にチームは一度、分裂しかけた。テスト期間が重なり、メンバー外の3年生の気持ちが野球から離れていた。主将大村は部員たちに問いかけた。「もう一回、日本一を目指してやるしかない。それにふさわしいチームなのか」。荘司も「あれがなかったら、ここまでできていない」と、結束は強固なものになった。

 甲子園では急ピッチでの分析が求められた。初戦の北陸戦では、組み合わせ抽選会のライブ中継を見ながら、対戦校が決まった瞬間にデータ収集を開始。深夜2時まで作業に没頭したという。

 タフな役回りにも荘司は謙遜する。「選手はデータのおかげと言ってくれるが、実際に打つことがすごい」。準決勝を前にできることはやりきった。「後は全力で応援するだけ」(藤江広祐、和城信行)

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