【WEB記事】慶応前監督上田さん「教師冥利」 「エンジョイ」の礎築く(2023.08.22 神奈川新聞)
2023年08月30日
「上田さーん」。慶応高応援団であふれた甲子園の一塁側アルプススタンド。前監督の上田誠さん(66)が現れると、詰めかけた卒業生、現役生から歓迎のあいさつが飛び交った。
1991年から2015年まで同校野球部を率い、「エンジョイ・ベースボール」の礎を築いた名指揮官だ。「アルプススタンドから野球を見るのは初めて。こういう形で甲子園に来られて、こんなにうれしいことはない」と、まぶしそうにグラウンドを見つめた。
今の森林貴彦監督(50)が2年生だった年に監督に就任。「森林君は、とにかく高校野球が大好きな選手でね」と上田さん。赤松衡樹部長(47)ら多くの現スタッフも指導してきた。「みんなが慶応に戻ってきて、こうしてチームを強くしてくれて、教師冥利(みょうり)に尽きる」。上田さんが種をまいた自由を尊ぶ野球は、教え子たちによって大きく花開いた。
髪形の話題には苦笑い
その象徴として、今夏、髪形が多くのメディアで取り上げられた。上田さんは「僕の時は何にも話題にならなかったのにな」と苦笑いを見せながら、「時代が変わってきた。背景にあるのは野球界の危機感」と言う。
監督を離れて8年。上田さんは今も交流サイト(SNS)などを活用し、特に少年少女の野球離れへの提言を続けている。「このままではダメだと多くの関係者が思っている。学童野球の指導者は高校野球のまねをするんです。慶応のようなリラックスした野球で勝てるとなれば、そういう方向を目指す指導者が増えてくるんじゃないか」
「エンジョイ・ベースボール」が日本の野球を変えていく─。そんな上田さんの願いも背負い、慶応ナインは23日の決勝に臨む。(和城 信行)